まるで泡のように

 

 

 

 

 

欲しかったのは、億万長者みたいな贅沢な生活じゃない。

 

 

 

俳優として成功して、1度の出演で一般の人には考えも及ばないような金額を受け取る。

家はちょっと迷いそうなくらい広くて、自分だけではとてもじゃないが掃除すらできない。

もちろん掃除するような暇などありはしないのだけれど。

しかしそれもお手伝いさんがいて、いつもぴかぴかに磨き上げられている。

調度品だって、何だったか名前は忘れたけど有名なインテリアコーディネーターが来て、頼みもしないのに世界中の有名なものを揃えていった。

時々テレビでやってる豪邸特集のようなものに取り上げられたこともある。

それが放映された後、皆にうらやましがられたっけ。

 

でもそれが何だっていうんだろう。

たった一人にこの家は広すぎて、寂しい。

 

違う。俺がほしかったのはこんなんじゃない。

 

 

君がいてくれればよかった。

郊外に、白い壁に深緑の屋根の少し庭が付いている小さな家を買って。

庭では君が花や少し野菜を育てるかもしれない。

 

調度品だって立派じゃなくていい。100均に二人で買い物に行ったっていい。

あ、ただテレビだけはでかいのにしよう。流行のホームシアターみたいな。

俺は留守にすることが多いから、寂しくないように。

……まあ本音は、俺のことをでかい画面で見て欲しいからだったりするんだけど。

 

子どもは二人がいい。できれば男の子と女の子一人ずつ。

でも俺と君の子なんだから、どっちだって可愛いに決まってる。

それから君は料理があんまり上手くないから、きっとたくさん練習するんだろう。

だからキッチンは少し広いほうがいい。子ども達も一緒に料理ができるように。

でも上手くなくたって、君が作っていれば俺にとってはどんな料理よりうまいだろう。

 

犬も飼ってみようか。どんな犬がいい?

あんましたことないけど、俺が日曜大工で小屋を作るよ。

そしたら子どもと君で散歩をして。休みの日は俺も加わって。

餌やりは君と子どもと俺とで当番にしよう。

 

 

きっと毎日笑顔が溢れてる。

なあ、帰ったらお帰りって言って、ご飯とお風呂どっちにするって聞いてくれよ。

俺はもちろんお前って答えるけどな。

 

 

いつまでも恋人みたいな関係でいよう。

親になっても、二人でしわくちゃのおじいちゃんとおばあちゃんになっても。

そして、次の世でだって。

いつまでもいつまでも君のことを好きでいる自信があるから。

 

 

 

欲しかったのは、億万長者みたいな贅沢な生活じゃない。

君がいればそれでよかったんだ。

俺は、君との生活を夢見ていたんだ。

 

 

(06.09.20)

 

 

 

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