Dangerous Beauty

 

 

「おっつかれー!」

「お疲れ様でーす。」

「失礼しますー。」

 

収録が終わっても、番組そのままの熱気がスタジオを包んでいる。

今日ホスト体験記は収録休みの日だったが、売れっ子の炎樹に休みなどない。

まあホスト体験記あるなしではなく、要の頭には「明里に会える日」と「会えない日」という区分しかなかったが。

(あ〜、今日は会えねぇんだよなー。明里何してっかなー。)

隅の椅子に座って次の撮影が始まるまでの時間をつぶす。

せめて少しでも繋がっていたくて、携帯を取り出して慣れた仕草で番号を呼び出した。

けれどこの時間はバイトしている頃だと思い出し、メール画面を開いた。

(「今バイト中か?俺はまだこれから撮影だぜ。あー、明里に会いてぇよ。今日収録10時くらいに終わるんだけど、会えねぇか?」)

淀みなくボタンを押して、送信する。

送信完了の文字を見て、満足して携帯を閉じた。

 

「えーんじゅっ。おっつかれー!」

少し舌足らずな喋り方。

もう番組用の服装から着替えている理沙が機材を器用によけながら走ってくる。

「おー、お疲れさん。何だよそのカッコ。今からどっか行くんか?」

「うん。今日理沙コレで終わりなんだ〜。

ぬふー。今日実はね〜、これから〜。」

やたらと短いスカート、メイクもわざわざやり直しているようだ。

人差し指をグロスで光る唇に当てて、「どうしよっかな〜、やっぱ教えないでいよっかな〜。」などと言っている。

「気になるじゃねぇか。そこまで言ったら言えよな。」

やたらともったいぶる理沙の様子に少し苛々としながら炎樹は聞き返した。

「そっかぁ〜。聞きたいなら教えちゃおっかなー。」

にやりと怪しく笑う理沙になにやら嫌な予感がした。

「理沙この後デートなんだよね〜。」

「へー。お前ついに彼氏できたんか?おめでとさん。」

「相手は〜あ・か・り・さ・ん!なんだけどぉー。」

「……はぁ!?」

「えんじゅはまだこの後収録あるんでしょ〜?頑張ってねー。」

あの炎樹と一度別れたときに送られたメールがきっかけで、今でも明里と理沙が交流があることは知っていた。

しかしデートとは一体何なのか。しかもその気合の入った格好は!?

「お、おい!ちょっと待て!!」

「もー、折角選んだ服が乱れちゃうー。ひっぱらないで〜。」

「明里とってどういうことだよ!俺会えねぇのに!それにデートって何だよ。一緒に遊びに行くってことだよな?」

「会えないのはえんじゅの都合でしょぉ〜?一緒に遊ぶだけかどうかは…どうかなぁ〜?」

「はっ!?」

今衝撃的なことを聞いた気がする。炎樹の胸にいよいよ嫌な予感が渦巻いていた。

「今まではそうだったけどぉ、明里さんてすっごくかわいいよねぇ。えんじゅが夢中になっちゃうの理沙も分かっちゃった〜。

なんか不思議に色気があったりするんだよねぇ〜。」

「そうだよなー!明里ってすっげかわいーんだよ。今まで彼氏居なかったのが不思議だぜ。」

明里を褒められて嬉しくなった要は思わず頷いた。

「……思わず食べちゃいたくなるくらいだよね。」

…………。

「………はあっ!?」

「それじゃえんじゅは撮影頑張ってねぇ〜。明里さんのことは理沙に任せて〜!」

ばちりとウインクを決め、ひらりと短いスカートから足をのぞかせて踵を返した。

「おい理沙ちょっと待て!」

手を上げて足を踏み出したところで次の撮影が始まると声がかかり、理沙を止めるため上げられた手は行き場を失ってしまった。

 

お前は明里と俺を取り合う立場だったのでは?

いつの間にこんなことになったんだよ。しかもあの最後の気になるセリフは何だよ!

 

 

もやもやとした気持ちで収録が始まったが、その撮影の休憩時間。

5/14 20:03

From:明里

Subject:お疲れ様です☆

要さん、収録お疲れ様です。

今日は理沙さんとご飯を食べる約束をしていて…。

さっき食べ終わったんですけど、これから少し遊ぼうと誘われたので会えそうにないです。

ごめんなさい。

…なんだか今日の理沙さんはすごく色っぽいので戸惑ってしまいます。

売れっ子アイドルなの分かるなあ。

要さんはまだ収録中ですよね。頑張ってください。

いつも通り折り目正しい文章の明里のメール。

普段なら明里からメールが来たことに幸せを感じ、断られたことに落胆するのだが今はそれより気になることがあった。

(ご飯が終わってこれから遊ぶ?おい待て待て待て。しかもこのメールとあの理沙のセリフ…!)

 

突然ガタリと椅子を蹴飛ばして、すごい勢いで収録がまだ終わっていないスタジオを飛び出そうとする炎樹に、周囲に居た人々は驚いた。

「ちょ、ちょっと炎樹どこ行くの!まだ終わってないのよ!?」

鈴原が止め、番組スタッフが羽交い絞めにする。

「離せ!あいつは小動物系のかわいさとか言われてっけど実は肉食獣なんだよ!

俺の明里が〜〜!!」

 

わけの分からないことを叫びながらもがく炎樹を必死で抑えたスタッフ達が、今日一番の功労者であった。

 

 

(理沙かわいいですよね。炎樹を好きなのもいいんですけど、炎樹と明里を取り合うってどうだろうと考えたらうっかり萌えてしまったのでこんなことに・・・。理沙ファンの皆様すいません・・・。たぶん明里はチューくらいは普通にされてると思います。)

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