家は左隣とお向かい。
0歳の時から一緒に写真に写っている。
3人はずっと並んで歩いてきて、時々誰かに恋人ができたり、日直や部活で2人になったりあるいは1人になったりしたが、ほとんどは3人一緒だった。
それが3人にとってはごく自然なことで、当たり前だった。
3人の関係を一言で表すならば、幼馴染、だった。この日までは。

 

さらわれた恋の行方

 

「私、もう祐ちゃんと要ちゃんとは一緒に学校行かない。」

 

そんな爆弾発言が彼女の口から飛び出したのは、いつもの帰り道が終わりに近づいた頃だった。
もう曲がり角の向こうには彼女の家が見えている。ついでに言えば、その左隣の要の家も、向かいの祐一朗の家ももちろん見えている。
かれこれ15年間と数ヶ月一緒にいて、こんな言葉が彼女から出たのは初めてだったので、当然二人は驚いた。
もともと一般的な女の子の基準からすると、どちらかというと大人しく人見知りする明里だが、二人の前ではよく喋る。それが確かに今日の帰り道はむっつりと俯きがちに歩いていたが、密かに女の子の日かな、なんて思っていた(思っていただけで口には出していない。以前にからかった時には真っ赤になって『要ちゃんのばかあ!』と叫んで一人走って帰ってしまった。また男二人っきりにされるのはごめんだ)。

「それと明日から、樫宮くんと綾織くんって呼ぶから。」
と、二人が困惑している間に、もう一つの宣言がなされた。

俯いている明里のつむじを見ていた男二人は、とりあえず目線を上げて一度お互いの顔を見た。
どうやら相手も彼女からそんなことを言われるようなことをした覚えはないようだ。

「なんなんだ、突然。」
「明里、俺ら何かしたっけ?」
それぞれに声をかけてみるが、やはり見えるのはつむじばかりだった。

「だって色々言われるんだもん。」
「言われるって何を。」
「誰に?」
なんだかなかなかはっきりと見えてこない彼女の言葉を二人がかりでなんとか引き出す。

そうして出てきた彼女の話を要約するとこうだ。
高校に入学して3ヶ月。中学校まではずっと同じ地区の子達が一緒だったが、高校に入って3人の関係をよく知らない人も増えた。
祐一朗と要は実によくもてるタイプだったので、そうすると自然と二人と一緒にいる明里に女の子の関心が向いたらしい。それもよくない方向で。
けれどそれは予想の範疇だったので、最初のうちは明里も気にしていなかった。
実際中学校のときも似たようなことがあったのだ。
しかし事情が変わった。
要がつい先日付き合いだした彼女が、まあこれが結構なやきもち焼きで、おまけに強気だったものだから、明里が色々と被害を被っているらしい。
ついでによくないことに、それに便乗して彼女でもないくせに祐一朗のことについて言ってくるけしからん輩も出てきたらしいのだ。

「だから、明日から祐ちゃんと要ちゃんも私のこと作上さんって呼んでね。」

そう言うと明里はすっきりした、と言わんばかりに今日最初の笑顔を見せた。
ついでに、これでもう何も言わせないんだから!なんて小さくガッツポーズまでしている。

「な…んだよー、そんなことで俺らの関係壊れんのかー?もっと堂々としときゃいいじゃん。」
「なっ、要ちゃんは女の怖さを分かってないんだよ!もー、ほんと色々言われたんだから!自分が可愛くないのなんて100も承知だけど、別に強調して言わなくたっていいじゃない。」
と、明里は他にもこんなことを言われた、とぶつぶつ言っている。
「あいつ明里にそんなこと言ってんの?明里はかわいいって!前からずっと言ってるじゃん。今度俺からあいつに言っとく。つーか、そこまでされるとちょっとうぜー…。」
「要ちゃん、また懲りずに顔で彼女選んだんでしょ。でも付き合った以上ちゃんとしないとだめだよ。」
「でもなー…」

 

「もー、とにかく、私達ただの幼馴染だから、明日からそうするように!」
要の言葉を遮り明里は再度宣言して、満足したようにすたすたと歩き出した。

 

「…じゃあ、ただの幼馴染じゃなければいいのか。」
そんな彼女の後姿に言葉をかけたのは、しばらく考え込んでいた祐一朗のほうだった。
「え?」
「だから、幼馴染じゃなければいいのかと聞いているんだ。」
「どーいう意味だよ。」
真剣な顔で問いかける祐一朗の言葉の意図が掴みきれずに、明里と要は問いかけた。

「恋人なら、お前と離れなくてもいいんだろう。俺と付き合ってくれ、明里。」
腕を組んで仁王立ち。
お願いされているはずなのに、全然そんな気がしない。
言葉と態度が一致しなくて、言葉の意味が脳に到達するのに時間がかかってしまった。たっぷり1分間、明里はその場に固まっていた。

 

幼馴染。
それが3人の15年と数ヶ月の関係だった。
この日、この言葉を聞くまでは。

 

(08.05.13)

 

 

※自分設定補足

祐一朗、要、明里は生まれた時からお隣さんの幼馴染。
祐一朗と要はモテて、中学校時代に彼女もいた。
二人は仲は悪くないが、明里がいないと関係がなりたたない感じ。祐一朗と明里、要と明里という組み合わせはあっても、祐一朗と要、という組み合わせでは仲良くしない。
明里と要はこの時点では完全に3人の関係をただの幼馴染としてしかとらえていない。
この後、要が祐一朗となんだか接近していく明里を見てイラッとして、結局彼女と別れて明里争奪戦に参加したり、明里は二人の変化にとまどったり、祐一朗は自分の気持ちをセーブしなくなって色々仕掛けたりと恋愛模様が繰り広げられる(私の脳内で)。
結局どちらとくっつくかは皆さんのご想像にお任せいたします。

この話は、明里ちゃんに「祐ちゃん」「要ちゃん」とちゃん付けさせたくて書いたお話でした。
この3人って公式で同い年設定なんですよね、オイシイ。