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【炎樹→明里】

 

なかなか手に入らないんですよといわれて渡されたそれを、一口含んだ。

ほのかな苦味と香ばしい香り。

この業界に入ってからそこそこ舌が肥えたと自負している。

確かに味も香りも一級品だ。

きっと値段も一般的に飲まれているものとは桁が違うのだろう。

けれど。

 

ゴージャスの帰りに二人で飲んだ1本120円のやたらとしつこく甘い缶コーヒーのほうがうまかったと感じるのはなぜなんだろう。

「…はは、マジかよ…。」

先日からの予感を裏づけられたような気がした。

 

(06.09.20)

 

ゲーム中、破局後

 

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【炎樹×明里】

 

珍しく自然と目が覚めた朝。

隣に手を伸ばすと、僅かなぬくもりが要の手を温めた。

まだ彼女がここから抜け出していくばくも経っていないようだ。

すこしはねた髪の毛をなでつけながらあくびをして、のそりと起き上がった。

 

トントントン。コトコトコトと朝の旋律が聞こえる。

その音に誘われるようにキッチンへ向かうと後姿が見えた。

部屋の入り口から見つめていると、忙しなく動き回っていた彼女の動きが止まる。

そっと左手をかかげて、微笑んだ。

彼女の細い指を飾る石がきらきらりと朝日を反射して、光は柔らかく要を射抜いた。

先日自分が渡したそれを、彼女はいとおしそうに見つめて、一つ、キスを落とした。

 

その姿がとても綺麗だと思った。

彼女に会うまで、結婚という形にとらわれるなんてばかばかしいと思っていたけれど。

彼女がもうすぐ自分の妻になる。

もうすぐあの後姿が名実共に当たり前の風景になるんだと思うと、要はこの上なく誇らしい気持ちになった。

 

(06.09.20)

 

プロポーズ後、朝のワンシーン。

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【炎樹×明里&】

 

人は大切なものをたくさん持てない。

だって手は広げてもこれだけだから。

ほんのすこうし。

本当に大切なものはしっかり掴んで離さないようにしなければ。

 

そんなふうにテレビで言っていた。

その話を私がすると、じゃあ俺は大丈夫だなと彼が言った。

そんなに大切なもの少なかったっけ?なんでも欲張りなあなたなのに。

 

だって俺の宝ものはこんだけだからな。

 

ってくるりと回された腕の中には、私と息子。

それがどうしようもなく嬉しくて。

 

私の大切なものもこれだけよ。

 

と、息子を抱いて彼の背中に手を伸ばした。

 

(06.09.04)

 

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【炎樹×明里】

 

彼女は絶世の美女でもとびきり可愛らしいわけでもものすごく妖艶なわけでもなかった。

その辺に数多といる普通の女の子であった。女性と言った方が正しいかもしれないが。

とにかく平凡な女だった。

 

けれど100年に1人の逸材と言われるようになった彼にしてみれば、ただ一人愛しい人だった。

抜群の演技力と均整の取れた体格、それに甘いマスクを持つ彼は、日本だけでなく世界中から羨望の眼差しを向けられていたのだが彼が見ていたのはたった一人だった。

 

たくさんの女と男がなぜかと問うてみたが、彼も首を捻り、なぜだろうなと答えた。

けれどそのとろけるように優しい瞳はいつでも彼女にしか向けられないのだった。

 

 

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【炎樹→←明里】(BAD後)

 


日時:6月20日 3:05

To:綾織 要

件名:No Title

 

要さんへ

ゴージャスにいた頃なら、そろそろお仕事が終わった頃ですね。

今はあなたは何をしてますか?

こんな時間でも、ドラマや映画の撮影をしているんでしょうか。

あなたが出ているドラマを、たまに見ます。

いつも、じゃなくて…ほんとたまになんですけど。

ブラウン管の向こうのあなたはとても輝いていて、やっぱり実力がある人なんだなあと感じます。

…でも、…でもうぬぼれでなければ、私には私といたときのあなたの方がキラキラして見えました。

……やっぱりただの勘違いでしょうか。

 

あなたが、好きなんです。

 


ボタンを押すと、ピッという音と共に送信中のアニメが流れる。

ことりが手紙をポストに運ぶアニメーション。

ポトリ、と手紙がポストに入って送信終了。

 

けれど現実にはあなたに想いは届かない。

 

『Mail System Error−Returned Mail』…

 

行き先を見失った手紙は一体どこに届ければいいんでしょう。

返って来るメールは、もうあなたからのものじゃないのに。

 

(BADは妄想が膨らみます。見た時はムカつきを通り越して叫びましたが。)

 

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【炎樹→明里】

 

……………眠れない。

 

ベッドに横たえていた体を起こす。

真冬だというのに、握り締めていた手にはじっとりと汗が滲んでいた。

仕事の合間のほんの短い休息の時間。

疲れきった体は泥のように重たく眠りを欲しているのに、意識だけが冴え冴えとしていた。

 

利用し、裏切った。

仕事のために都合のいい女だった。

それなのに。

 

去っていく彼女の後ろ姿を思い出す。

やがて前を向いた彼女の瞳を思い出す。

 

初めてじゃない。

女と付き合うのも別れるのも、告白するのも。

なのになんだってこんなに緊張するんだろう。

 

決戦前夜。

………その問の、答えはもう分かっている。

 

 

(二度目の告白前夜。ゲーム中、こんなふうには感じませんでしたが、実は色々葛藤したり恐れていたりしてて欲しい。

本気の恋はいつだって怖いのです)

 

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【炎樹×明里】

 

『年末NG大賞ー!後半のゲストはなんと九神炎樹さんです!』

『どうもー。こんばんは。』

『九神さん、こういった番組にはほとんど出られたことありませんよね。』

『そうですね、今まであんま出る機会はありませんでしたね。』

『今回来てくださったのはなぜなんでしょうか?』

『実は、今年ものすごくNGを出してしまって。それでお前行って来いって言われちゃったんですよ。』

『九神さん今まではNG出さないことで有名でしたよね。どういった変化があったんですか?

あ、もしかして結婚されたから気が緩んじゃってるんじゃないですかー?』

『あはは。まあほぼ当たりかもしれないですけど。

なんつーか、ラブシーンやってる時間違えて嫁の名前呼んじゃうんですよねー。

気をつけてはいるんですけど、何度もやっちゃって。

そんでこないだ撮ったドラマでも共演者中NG最多だったんですよ。

でもこればっかはしょうがないっつーか。ラブシーンの時つい相手に重ねて見ちゃうんで。

NG増えるんですけどそれやめると演技がイマイチになっちゃったんで、最後には監督もOKしてくれましたよ。』

 

その後司会含め番組出演者は延々ノロケ話を聞かされる羽目になった。

 

…こうして九神炎樹が芸能界きっての愛妻家として、全国に名を馳せたのだった。

 

 

(「かっかなめさんー!?」テレビを見てた明里。

後で炎樹はお説教です。)

 

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