10 すきまを埋める

 

 

長い冬が終わり、久々に盛大に顔を出したお日様と、春らしくなってきた暖かな風がこの上もなく気持ちいいのだということは分かる。

何故なら自分も常になく優しい気持ちになっていたから。

とはいえ、彼女がいると今までよりもずっとすべての事柄が優しいと感じる。ちょっとした道端の花も、夏祭りの山盛りのカキ氷も、落ち葉の積もった公園も。

彼女と過ごした幾つもの季節は雅紀の中でとても鮮やかだ。

 

『部屋で待ってるね』といういつもの短いメールに嬉しくなって、学部のやつらの誘いを全部断ってすぐに帰ってきた。

大学に入ってすぐに交換した合い鍵。自分の部屋のものはもちろん彼女にしか渡していないし、彼女の合い鍵を持っているのも家族を除けば自分だけだろう。

最初は合い鍵を使うことをためらっていた彼女だが、1年間でもう数え切れないほどの時間をこの部屋で一緒に過ごすことで、ようやくその壁も取っ払うことができた。

そうして自分がバイトでいないときに夕食を作りに来てくれて、一緒に夕飯をとったり。彼女が借りてきたホラーのDVDを一緒に布団にくるまって見たり。干しっ放しにしていた服がタンスに収まっているのににやけてみたりするわけだ。

そうしてすっかり馴染んだそこで見つけた一人と一匹寄り添う姿。ほわりと自分の頬が緩むのを感じた。自分の大切なものが傍にあるという幸せに束の間浸って。

それから少しムッとした。

 

ちょうど1年ほど前に越してきたマンション3階の端の部屋。他の部屋よりも端にある分窓がひとつ多くて光がたくさん入るのがよかった。ベランダも広くそこに面した窓は大きくて、思いっきり光が入るその前で、まったりするのが二人と一匹のお気に入りだった。

なのに今日は一人だけのけ者にされているようで。

なんだかちょっと気に食わない。

 

昔のように心に踏み込まれて苛々する気持ちとは違う。自分の本質を知らないで好きだと言ってくる女達に感じる苛立ちとも違う。

このなんとも言えない優しい気持ちに名前をつけるとしたら、きっとヤキモチって名前になるんだろう。

ほぅ、と柔らかい息をつきながらのんきに寝ている彼女と出会ってから生まれた気持ちだ。まだまだ雅紀の中では生まれたての気持ち。

そんな幼い気持ちを上手く扱う術なんて知らない。もう彼女の前で感情を上手く扱おうなんてそんなことも思わない。

 

 

そうして雅紀は一人と一匹の間の僅かな隙間に体を滑りこませた。

体格のいい雅紀がたった20センチほどの間に入ろうとすれば両側の存在が気付くのも当たり前で。

「ん…?んぅ…。」「…クゥーン。」

というちょっとした抗議がすぐに両側から上がったが、そんな声は無視して両側の存在をぎゅうと抱き締めた。

優しい眠りから引き上げられた一人と一匹は横からほっぺをつねったり、顔をべろりとなめたりしてきたが、それももう雅紀の中に溢れる幸福を大きくする要素でしかなかった。

 

 

再び落ちていきながらもすり寄ってくる優しいぬくもりが愛しくて。

もう一度抱き締めて一緒に眠る。

そんな優しい午後。

 

 

 

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第一回チャット記念美穂さんリクエスト作品。

カップリング 華原×ひとみ
内容 ヤキモチを焼くかわいい華原。

というリクエストでした。

それにしても…短い!しかもヤキモチはヤキモチでもほのぼのしすぎでしょうかね。
こんなヤキモチもあるよってことでどうでしょうか。ドキドキ。
最近ほのぼのブームです(私の中で)。

 

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