<小動物の飼い方10の基本> →Back
【序章】
夜中のテレビショッピングでは怪しげなものがよく売られている…らしい。
『一人暮らしのあなたに潤いを☆かわいい生き物があなたを癒してくれます』
そんないかにもな売り文句になぜだかよろりときて、うかつにもその場でダイヤルしてしまった桜川ひとみ。
次の日クール宅急便で届きました。パッケージには、『生物です』
「えー!なまものじゃなくていきものだよ!クールだめでしょ!」
急いで開けるとそこには寒さにプルプルと震え、藁にうもれている彼が居ました。
それが一人と一匹の出会いだったのです。
1 とてもナイーブないきものです 透 2 しげきぶつはあげてはいけません 剣之助 3 ストレスをあたえてはいけません 先生 4 てあらにあつかってはいけません 蓮2 5 ぐあいがわるいことをけんめいにかくします 雅紀2 6 さみしがりや、おくびょうです 綾人 7 しんらいかんをもってもらうのがたいせつです 雅紀1 8 とってもこわがりです 蓮1 9 あそぶのがとってもすきです 颯大 10 いじめてはいけません 兄 *キャラ名の後の番号は時系列を表してます。雅紀1→雅紀2、蓮1→蓮2の順番で話が流れてます。
【1 とてもナイーブないきものです】(透)
隣からぐしゅぐしゅと鼻をすする音が聞こえてくる。
その生き物の倍はあろう、ティッシュペーパーをずるずると引きずりながら端から鼻をかんでいる。
「ううっ、いいおはなしだね、ひとみちゃん。」
ちーーーーん!
思いっきり鼻をかむ彼の鼻の頭は、鼻セ○ブを使っていても真っ赤になっている。
ビデオの返却が明日だからと言って無理に見ずに、やはり飼育書に従えばよかった。
『注:いきなりフランダースの犬を見せてはいけません。花粉症なので鼻水が余計止まらなくなります。』
ナイーブ:素朴なさま。純真なさま。感じやすいさま。
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【2 しげきぶつはあげてはいけません】(剣之助)
小さな体でキッチンをウロウロする生き物を横目で見ながら、飼育書を読む。
どうやら彼はお菓子作りが趣味らしい。
けれどさっきから生クリームを泡立てながら自分がボールの中に落ち込んでいたし、ホールケーキの真ん中に苺を乗せようとして失敗し、自分がケーキの具になっていた。
……なかなか面白い。
ふと飼育書に目を落とすと面白いことが書かれてあった。にやり。
きょうもおいしいおかしをあいつのためにつくってやるぜ!
ん?なんだこれ?なべのそばになにかほんがおかれてあるぞ?
「ぷれい・・・ぼーい?」
ぱらり…(めくる)
「……〜〜〜〜〜☆*△■!?」
ブッシャアアアーーー!(鼻血噴射音)
ぱたり(気絶音)
『注:刺激的な内容の本を見せないようにしましょう。まったく免疫がありません。』
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【3 ストレスをあたえてはいけません】(先生)
「あー。やにぎれだ。いらいらするぜ。」
出窓に座って足を組む生き物は一体何なのか。
小動物のはずなのに、全然かわいくないんですけど!
「あ?なんだよ。おれさまにみとれてやがったのか?それならそーといえば…。」
かっこよく飛び降りようとしたらしいが、何分体が小さいので、ぺしゃ、という音と共に床に墜落した。
「いでで…。としのせいかうんどうぶそくのせいか…。」
ぱたぱたと白衣をはたいて(なぜか付属品だった)、ちょこちょこちょこと近づいてきた。
ん?何だろう…。
……ってぎゃーーーーー!こ、コラ、服の中に入るな!足触るなーーーー!
『注:ストレス解消のため、シガレットチョコでも与えておきましょう。ストレスが溜まるとセクハラ行動をすることがあります。』
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【4 てあらにあつかってはいけません】(蓮)
「………おい。」
ぐーぐーぐー。
「……おい。」
すぴーすぴー。
「…おい。」
くかーくかー。
「おいこらっ。おもいだろうが〜〜〜。」
・・・・・・・・・ん?
「あ、ごめんごめん。潰れちゃってない?」
「…もうすこしでつぶれるところだった。なぜまいにちそんなにねぞうがわるいんだ。これではいつかおれがしんでしまうだろうが。」
「う。ご、ごめん。で、でもあっちで寝てもいいんだよって言ってるのにこっちがいいって言ってるのは蓮じゃない!」
「ぐ。そうだが…おんななんだからもうすこしおしとやかにねろ。よめのもらいてがなくなるぞ。」
「ぐさっ。い、いいもん!ずっと蓮と一緒に暮らすもん!」
ふんだ。そんな風に言わなくたっていいじゃな・・・い・・・?
…あれ。あれれ。
「あ、赤くなってる。」
「ば、ばかかおまえは。はやくよめにいけっ。」
「もう、そしたら蓮は寂しくなっちゃうでしょ〜。」
お嫁には行きたいけど、まだまだ二人でいいかもしれない。
『注:きちんとできないと文句が多いですが、それも愛の鞭なので頑張りましょう。』
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【5 ぐあいがわるいことをけんめいにかくします】(雅紀)(7の方が時間軸としては前段階です)
朝、起きてみるといつも「おそいぞ!しゅたいんのさんぽのじかんだろ?」とか言ってくるちょっと憎たらしいあいつの姿が見えなかった。
小屋をのぞいて見ると黒いぬいぐるみに抱きついたままぐったりしている。
「ど、どうしたの?大丈夫?」
声をかけるとゆっくりと顔を上げる。
「なんでもない。ちょっとねむぶそくだったからねむいだけ。」
そんな風に言うけれど、とてもそうは見えない。
ひょいと抱き上げるといつもより少し熱い。
「もう!熱あるじゃない!もっと早く言ってくれればよかったのに…。」
氷を砕いて小さな氷枕を作り、小さな器にお粥を盛った。
ハンカチ3枚にくるまってもこもこになった彼に、これまた小さなおもちゃのスプーンで
「はい、あーん。」
案の定睨みつけられたけど、病人なんだからと言うとしぶしぶ口を開いた。
ぽっと染まった赤い頬がなんだか痛々しくてでも可愛い。
「今日はうちにいるから何かあったらすぐに呼んでね。」
ってそう言うと、ふいっと顔をそらしたけれど、少しして
「…ありがと。」
って呟いた。
『注:何でも自分で解決しようとします。本当は助けを必要としていることも多いので、気づいてあげましょう。』
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【6 さみしがりや、おくびょうです】(綾人)
右肩にはお気に入りのトートバッグ。お財布、定期、ポーチも入れた。
右ポケットには飴玉、チューインガム、ハンカチ。
そして左ポケットには…綾人。
それが最近の私の外出スタイルだ。
「じゃあ行ってくるね。いい子でお留守番してて。」
そう言って出会ってから初めて出かけようとした私に
「…ぼくをおいていくのかい?さみしくてどうにかなってしまうよ…。
……ぼくもつれていってくれないかい?」
そんな風に美少年(に見える小動物)にウルウルキラキラした目で見られたら、世の中落ちない女はいないと思った。
「ぼく、きみとでかけていろいろなことをみられてしあわせだよ。
…もちろん、いちばんしあわせなのはきみといられることだけどね。」
……なんでこんなに恥ずかしいセリフをぽんぽん言えるんだろう。どう考えても女たらしの要素が…ゲフゲフ。
でも小さな生き物に言われてときめいてる私も、もう末期症状かもしれない。
『注:素なのかタラシなのか実は腹黒いのか不明です。翻弄されないように気をつけましょう。』
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【7 しんらいかんをもってもらうのがたいせつです】(雅紀)
テーブルの上に座る彼はなんだか興味なさげに周りを見渡してから言った。
「あんたがおれのかいぬし?」
「うん。そうだよ。よろしくね!」
私が差し出した手をちらっと見てからふっと笑って指先を少し握られた。
「やしなってもらうからいちおうあいさつしとくけど、おれ、あんたのことぜんぜんすきでもないししんじてもいないから。そこんとこよろしく。」
ぐっ…。なんて可愛げのない…!
「小屋はここでいい?」
「ん?まあどこでも。……!あ、あのぬいぐるみくれ!」
なにやら少し必死な様子でぬいぐるみの棚を指差している。
「え?これ?うん、いいけど。じゃあはい。」
ふわふわの黒い犬のぬいぐるみを渡すと途端に目をキラキラさせて、自分より一回りくらい大きなぬいぐるみをぎゅうと抱き締めた。
「しゅたいん!」
しゅたいん?もう名前付けたのか…。
「あんたけっこういいやつだな。それなりになかよくしてやるよ。」
……なんかこの先不安な感じだけど、まあ出だしは好調…かな?
【注:人間不信です。とりあえず仲良くなる手段として犬(ぬいぐるみ可)などを用いましょう。】
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【8 とってもこわがりです】(蓮)
一応あれは♂だというので(いや関係ないけどさ)、居間に付属の小屋を設置して、ハンカチの布団を用意した。
おやすみ、というとまだ懐いていないので『ふん!』とかってそっぽを向かれてしまったけれど(憎たらしい)、まあこれからだよね。
なんだかんだと飼育書を読んだり餌やりをしていると疲れてしまった。
ベッドにもぐりこんでパチリとサイドテーブルのライトを消した。ふー。おやすみー…。
……とてとてとてとて たすたすたすたす
なんか音がする。
ドアをカチャリと開けてみると、足元に、布団にとあてがったハンカチを律儀に折りたたみ小脇に抱えた蓮がいる。どうやらとてとては歩いてくる音でたすたすというのはドアを叩いた音らしい。
「どうしたの?」
しゃがんで聞くとふい、と顔をそらす。か、かわいくないっ。
けど…あれ?なんだか顔が赤い。
「……い、いっしょにねてもいいか。」
おやおやおやっ。もしかして…。
「ふふ、いいよ。」
手を差し出すとほたほたと歩いてきて乗っかった。落ちないように親指をぎゅっと掴んでいる。
…なーんだ。かわいいなあ。
「おい、つぶすなよ。」
なんて憎まれ口を叩いているけれど、布団にもそもそともぐりこむ様子は可愛い以外の何物でもない。
「おやすみ…。蓮。」
「ふん。…おやすみ。」
『注:怖がりです。暗闇に一人にすると怯えます。強がりなのであなたが察してあげましょう。』
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【9 あそぶのがとってもすきです】(颯大)
私の家族になった小さな彼は、とにかく可愛かった。
くっつくのが好きらしくて、すぐに寄ってくる。
今も私の肩に乗って髪の毛を握ってみたり、首に抱きついたり、擦り寄ってきたり。
くすぐったくて首をすくめると、「ぎゅ。」という変な声と共に私の顔と肩に挟まれていた。
「ひどいや、ひとみちゃん。」
そう言ってぷりぷりと怒って小さな口をすぼめている様子も可愛らしくて、謝らなきゃいけないのに笑いがこぼれてしまう。
「ごめんごめん、はい、じゃあこれお詫びにプレゼント!」
そう言って色とりどりのビー玉をころころとテーブルに置くと、ビー玉みたいに瞳をキラキラさせて
「わあ!ひとみちゃんありがとう!ぼくのたからものにする!」
とか言われちゃったら、お姉さんなんでもしちゃうよ?
『注:思いっきり遊んであげましょう。あなたと一緒に居るのが彼の幸せなのです。』
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【10 いじめてはいけません】(鷹士)
「ひとみひとみ!おまえはかわいいなあ。」
届いてから、なんだかやたらと懐いてきたこの生き物は、今日も朝からべっったりである。
外に行こうとしても、『そとはきけんがいっぱいだぞ!おにいちゃんをつれていくんだ!』
だれかがきても、『おにいちゃんがでるぞ!へんなかんゆうだってことわってやるからな!』
……一体いつ私が妹になったのか。
しかし私のことを心底好きでいてくれているらしい。
なのでちょっと面白くて、意地悪することにしてみた。
「あ〜、彼氏ほしいなあ。」
「!?ひとみはおにいちゃんだけじゃふまんなのか!?おにいちゃんはひとみがいればしあわせなのに!」
カレーをほおばっていたお兄ちゃんが(こう呼べといわれた)、口から米粒をとばしながら涙目で訴えてきた。
「だってお兄ちゃんは小さすぎるもん。人間の彼氏がほしいよ。」
「!!!う、うわああああああ〜〜〜ん!い、いまからおにいちゃんかみさまにおいのりするから!ずびっ。
か、がみざま!ぐすっ。おねがいでず、ぼぐをにんげんにしでください!ずるっ。ぐしゅ。」
涙を滝のように溢れさせながら、お兄ちゃんは小さな手を組み合わせて祈り始めた。
あ、あちゃ。やりすぎたかな…。
でも、これだけ愛されたらしばらくは彼氏もいらないかな。
とりあえずかわいい私の小さな恋人の赤くなった頬にキスをした。
『注:あなたのことが大好きです。意地悪しないで大事にしてあげてください。』
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