夢だったと思うには、もう気持ちが大きくなりすぎていて。もうあの時みたいに自分を納得させることなんて出来そうもなかった。

 

 

 

片道切符 序

 

 

薄暗い部屋の中で、明里は独りでいた。

ベットに座り、壁に背を預けて膝を抱える。

 

二度目の別れはとても一方的で。無機質な箱の中に写る彼が、何を言っているのか理解できなかった。

ついこの間のことだったはずだ。彼からやり直して欲しいと言われたのも、抱きしめられたのも、雪の中で口付けを交わしたことも。二人で、抱き合って眠った夜も。それから…永遠の幸せを望んだことも。

乾いた瞳で、メールの受診画面に視線を落とす。そこには彼からの最後のメッセージが表示されていて。何度も何度も読み返してみてもやっぱりそれは変わらない。

彼の苦悩と……別れを示す言葉。

 

 

今日は雨が降っている。まるで私の代わりに泣いてくれているみたい、と麻痺した頭でぼんやりと考える。

もうあの記者会見の日から10日が経ったけれど、何かが変わらないかと毎日祈っているけれど、何も変わらなかった。否定されてしまった恋はもう、テレビのワイドショーですら取り上げられることはなくて。まるで何もなかったかのように世界の時間は流れている。ただ明里だけが取り残されていて。

今まで送られてきたメールを次々に表示する。そうしなければ彼と過ごした時間が、まるで本当は無かったんじゃないかって幻だったんじゃないかって、そんな気がして。

だって電話もメールももう繋がらなくて。戻ってきたたくさんのメール達が心を真っ暗に塗りつぶしていく。

…もう私に残されているのは思い出を振り返ることだけでしょうか。誰か教えて欲しい。

私は彼の何を知った気でいたんだろう。住んでいるところも、彼の住む世界も何も知らなかった。

 

しとしとと朝から降り続いている雨はまだ止みそうにない。窓を叩く雨粒は春だというのに冷たくて。気分転換に外に出てみようという気持ちすらも奪われていく。

灰色の窓の外の世界を見ながら、胸を締め上げるような切なさを覚える。

 

 

人が、心の痛みで死ねるなら。きっと私はもうこの世にいないでしょう。

 

どうして想い合っているのに一緒にいられないの?この世はなんて息苦しいのだろう。まるで水から出た魚のように息ができない。

 

 

 

「っふ…、ぅ…」

 

水に帰りたい。要さんの傍へ。

 

別れを知ってから10日目。私はようやく、泣くことが出来ました。

 

 

 

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