彼に出会ったのは大学の入学式の時だった。

背が高くてそれだけでも目に付くのに、とてもかっこいい人だった。

私は入学早々大事なプリントを風に攫われて。

それを取って渡してくれたのが彼だった。

そのときの笑顔が素敵で。

笑顔に弱い私は生まれて初めて一目惚れをしてしまったの。

 

 

 

 

 

11.やさしいふりでもいい  前編

 

 

 

 

 

大学に入学してからもう1年が経とうとしている。

1年のうちは獣医学部といってもほとんどがまだ教養科目で、専門の授業はほとんどなくて。

彼と同じ授業は専門でしかないから、私含め、彼に憧れている同級生達は早く上の学年になりたいと愚痴をこぼしていた。

たとえ彼に恋人がいると知っていても憧れる気持ちには関係ないようだ。

 

 

「あ〜あ、今週も2回しか華原君に会えなかったなー。」

「だねー。早く2年になりたいよ。そしたら今より専門増えるもんねえ。」

 

 

さっきまで同じ授業に出ていた仲良しの由佳里と絵美も授業が終わるなり机に突っ伏してそんなことをぼやいている。

「あのかっこよさはもう反則だよねえ。

惚れるなって方が無理だよ。学部には他にいい男いないしさ。」

「全くだよね。あれで彼女いなかったら最高なんだけどなー。」

 

 

学食に行って、3人で何を食べようか悩む。

由佳里はダイエット中とか言って、サラダのみ頼んでいる。

十分やせてると思うんだけど。

もうあんまり席が残ってなかったけど、なんとか3人同じテーブルに座って、他愛もない話をしながらランチをとる。

 

 

「ねーねー!大ニュースだよお!」

 

 

ほとんど食べ終わった頃、騒々しく私たちの元に駆け寄ってきたのは同級生の加奈子だった。

噂好きで(よくガセネタとかも混じってるんだけど)、元気いっぱいで人気者だった。

 

 

「加奈どしたの〜?」

「ちょっと声大きいって。公共の場なんだから、もうちょっと静かにね。」

 

 

二人は加奈子にそう声をかけながら、すでに興味津々の顔をしている。

やっぱり女の子は噂話が好きなんだなあ。

かく言う私も自然と体が半分乗り出しているわけなんだけど。

 

 

「華原くんのことなんだけど!」

 

「え!?なになに、なにがあったの!?」

 

 

華原くんって聞いただけでさっきの3倍は話に食いついてる。

 

 

「大学祭ミスコン優勝者の経済学部の人いるじゃん、先輩に!

あの人が告ったらしいんだよー!」

 

「ええっ!?マジー!」

「えー、あの人じゃ勝ち目ないよお。」

「あのめっちゃくちゃ美人のバン・キュ・ボンの人でしょ〜。」

 

「そうそう、その人なんだけど。

でも華原くん振ったらしいのよ!」

 

「「「えええっ!?」」」

 

「やっぱ華原くん彼女大事なのかな〜。

違う大学みたいだから狙えるかなっとか思ってたんだけど。かわいいのかなー、やっぱ。

は〜あ。他にいい男いないのにー。」

 

 

華原くんが彼女持ちだってことは大学入学当初から知られてたけど。

少なくとも同じ大学の子ではないようだし、華原くんの彼女を見たことがある人が誰もいないってことがあって、あわよくばと告白する人も後を絶たなかった。

今回告白したっていうミスコン優勝者の人は私も学祭のときに見たんだけど、すごい美人だった。しかもなんか上品な感じで。

スカウトも何度もされているらしいって話。・・・・スタイルも抜群だしさ。

男の子達はその人を見て、あの人と付き合えるなら彼女と別れるぜ!とか言ってたっけ(彼女がかわいそう・・・。)。

その人でもダメだったんだ・・・。

 

 

「華原くんの彼女ってどんな人なんだろうねー。

写真とかも見せたがらないみたいだし。」

 

「謎だよね〜。」

 

 

「あ、そういえばさー・・・。」

 

 

その時はまたすぐに違う話題になって。

しばらく華原くんの彼女の話題を聞くことはなかったんだ。

 

      

 

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